趣味三昧 山田 和夫
吹矢に夢中(2)

 ロンドンオリンピックが終わった。

 鍛えたあげた選手のワザに一喜一憂の暑い夏でしだが、自衛隊選手の活躍に加えて、普段余り注目を浴びることの少ないマイナー種目での活躍がとても目立ちました。
 吹矢をやっている身としては特にアーチェリーが魅力的でした。ふり絞った弓から放たれた矢が、70メートル先の的に向かって放物線を描いて飛ぶ。中心の10点圏に当たったときの爽快感は見ているものにとってもたまらない。
 ましてや、選手本人にとってはなんとも言葉に表わせないほどの快感だろう。恐らくこの活躍を機にアーチェリーを始める人が増えるでしょう。

 防大の時は「弓道同好会」だったせいか、こうした「矢を飛ばす」スポーツにはとても魅力を感じています。
 でも、同じ矢を飛ばす競技であっても今夢中になっている吹矢とアーチェリーは基本的な部分でかなり異なっています。

① 矢を飛ばす動力は、アーチェリーが弓という物理的な反発力を利用するのに対して吹矢は人間の呼気で飛ばす。

 従って、力が弱いのは当然だが、それでも重さ0.8グラム、太さ13ミリの円錐形の矢が時速150km前後で筒を飛び出す。
 しかし矢が軽い分空気抵抗による消耗も大きく、的付近では少し放物線状に落下して命中精度が落ちてしまう。
 このため強く吹いて矢が落下し始める前に的に当たるようにする必要があるが、強く吹けば吹くほど上体が揺れ、手で支えられた筒も揺れて矢がぶれてしまうので、筒が揺れない程度の強い力で吹かなければならない。

 筒の長さは120センチある。大切なことは、矢が筒を離れる0.04秒の間に呼気の全量を吐き出して力を矢に伝えきってしまう必要がある。
 しかし、人間の呼気では弓の反発力のように瞬時に力を伝えることはできない。そこで何とか多くの力を矢に伝える工夫が求められる。

 現在練習しているのは、自分で「丹田太鼓」と名づけた呼吸法である。
 瞬時に息を吐くことは胸式呼吸では困難であり、横隔膜と直結した腹式呼吸で息を吐く必要がある。いったん全身で吸った空気を臍下3寸の「丹田」に落として、下腹で太鼓を叩くように至短時間に呼気を叩き出す。

 しかも「丹田太鼓」であれば、筋肉を使う下腹と上体が離れているので、筒を揺らすことなくより強い呼気を矢に伝えて命中精度を向上させることができる。
 幸い腹筋は鍛えることができるので、「丹田太鼓」をマスターすべく日々練習している。

② アーチェリーは照準具を備えていて射距離や風向・風速を修正するが、吹矢は照準具がない。

  照準具はないが、全くのヤマ勘ではなく、筒先と的の位置関係で狙いをつける。
 筒先1ミリの誤差は的では約1センチのズレになるので狙いは重要だ。
 基本的には両目で狙うよう指導されているが、私の場合は左眼の乱視が強いので両目を開いていても実際は右目で狙っている。
 しかし、その右目も少し白内障になっていて的がかすんで見える。特に蛍光灯の下では全体が白く霞がかかってしまう。
 (そろそろ手術かなぁー? 思わぬところで老化現象と戦っています。)

  距離が同じなら狙いは決まるはずだが、環境によって微妙に影響を受ける。
 自宅と体育館では狙いは異なり、体育館では自宅より3センチほど下を狙う。明確な理由は分からないが、自分では「空気感」かなと考えている。
 自宅では天井が低く狭いので的に当たったときの音がはっきり聞こえるが、体育館では広いのでほとんど音が聞こえない。反応が薄いので心理的につい強く吹いているのかもしれない。

  その他、室内の明暗、光の方向などで狙う位置も微妙に異なってくる。また、湿度によっては矢の飛び方も変わる。
 競技会では試矢が3本あるので、その3本で競技場の状態を把握する必要がある。それが不確かで、最初の1本が外れると後は不安の真っ只中で吹くことになる。

③ アーチェリーの矢には羽根が付いて安定を保つようになっているが、吹矢の矢には羽根がなく滑空して飛ぶので安定性に欠ける。

※ アーチェリーの矢は未確認だが、和弓の矢の羽根は軸に対して角度がつけられているので、少しだがライフル弾のように回転して飛ぶ。昔の人の知恵はすごいものだと感心する。

 吹矢は滑空矢であるからこそ矢の準備・整備には細心の注意が必要だ。
 まず未使用の矢を「矢切り」という道具を使って筒の太さに合うように切る。通常10本単位で切るが、斉一に切っているようでも全てが同じに切れているとは限らない。
 従って、試し吹きで変な飛び方をする矢は外しておくし、異なる時期に切った矢は一緒にはしない。例えば、昨日切った矢と今日切った矢は一緒には吹かない。

 練習などでは1ラウンド5本を単位に吹くが、直径13ミリの矢なので命中精度が上がってくるとどうしても「重ね矢」が出てくる。うまく重なれば良いが、端に当ったりすると傷が付くので飛び方に影響する。
 矢は消耗品とは思っているが、1日に3~4本駄目にすることもあり、1本270円もするのでちょっと痛い。


 オリンピックで注目を集めたアーチェリーと比較しつつやや細かく吹矢の説明をしましたが、同期の皆さんにも興味を持っていただけたでしょうか。
 最近はマスコミにも取り上げられるようになっていますが、「スポーツ吹矢」はまだまだ歴史が浅く、発展途上にあると思います。

 土浦市教育委員会には生涯学習の「人材バンク」制度があって、何らかの特技を持つ有志がその特技を普及するためのボランティア活動をしています。私も最近登録して8月2日に講習会を開きました。
 夏休み中なので中高生の若い人にも来て欲しいと考え年齢制限はしませんでしたが、市の広報で宣伝したこともあってか、応募者は年齢の高い人が多く、結局7名の方が参加してくれました・

 立ち位置6メートルで体験してもらいましたが、初心者でも結構当たるもので、「当たった」「外れた」で年齢を忘れて一喜一憂でした。 難しい(そんなに難しくはないけど)所作は抜きにして吹矢の楽しさを体験してもらいました。
 終了後何人かの人は興味を持たれたようですが、結局1名が入会して早速練習を始めています。

 同期生の皆さんでもし興味を持っている人がいましたら、協会に問い合わせれば自宅近くの支部を紹介してくれます。練習風景を見学したり、体験会に参加されたらいかがでしょうか。
 初期費用は2万円ぐらいなのでお手ごろです。