趣味三昧 山田 和夫
木工を楽しむ

 我家の家具のいくつかは朝霞駐屯地で育った桜の木で作りました。
 朝霞駐屯地に勤務していた頃、施設再配置計画に基づいて現在のような機能的な駐屯地に生まれ変わりました。

 桜の寿命は人間とほぼ同じ。
 毎年わずかな期間の花の盛りを過ぎると一挙に散るその姿を人間の一生になぞらえて、私たち日本人はとても愛着を感じています。 樹齢70歳前後、老齢の域に達しつつあるとはいえ、陸軍予科士官学校を経て戦後はキャンプドレイク、そして自衛隊朝霞駐屯地として樹下を過ぎゆく人々と時の流れを見てきた桜が切られてゆく。
 歴史と伝統を体現する桜並木が次々と伐採されていくことに何とも言えぬ悲しさを感じました。

 切られた桜はチップにされて溶かされますが、多くは焼かれてしまいます。
 本当にもったいない、何とかならないかと思ったものです。 
 私は、若い頃から木工を趣味としていました。そこで、つてを頼って業者に頼んで伐採された桜を貰いました。直径60センチほどの幹を2本。まず製材所で10センチほどの厚さに製材してもらい、自宅に運んで約2年間乾燥し、その後自分で小型製材機を作って製材・粗取りをして家具を作りました。
 朝霞駐屯地の桜の多くは伐採されてしまいましたが、僅かですがこうして姿を変えて我家で余生を長らえています。


(写真1)
 居間に置いてあるテーブルです。
 縦1メートル、横2メートル、高さ63センチで重さは約40キロあります。
 天板は4枚で作っています。中央の2枚は貼り合わせましたが、縁材との間は湿度の変化による伸縮に対応できるよう溝に嵌めてあります。最大で2ミリほどの伸縮があるので、固定すると壊れてしまいます。
 木は伐採後も樹齢の分だけ生き続けると言われています。樹齢2000年の檜は伐採後も寺院などの建築物に姿を変えて2000年生きます。
 季節によって変わるテーブルの伸縮を見て、士官候補生たちの雄姿を見送った桜が我家でまだ生きているのだと実感します。
 市販のリビング用のテーブルは40センチぐらいの高さのものが多いのですが、63センチの高さだと来客時にソファーに座ったままお茶を飲み軽食も摂ることができます。
 更に女性が膝元を気にする必要がないのがありがたいです。









(写真2)
 玄関の姿見です。
 縁を角にしてもよいのですが、木材を節約するとともに装飾のためにミミ付(木の皮を剥いだ部分を残す)にしています。
 木の節が模様になり手作り感がよく出ていてとても柔らかな印象になっています。
 ワンタッチで鏡の角度を変えられるようにしてあります。
 この他に、サイドテーブル、衝立、傘立てなど多くの作品に姿を変えて朝霞の桜が我家で生きています。






 小さいころから木工は大好きでした。
 官舎住まいの時も室内やベランダで小物を作っていましたが、定年後たまたま茨城県職業訓練校の「家屋修繕課程」に入る機会があり、大工仕事や障子・襖貼り、ブロック積みなどについて約6か月教育を受けました。
 とても勉強になりました。特に、ノミやカンナの刃が砥げるようになったのは大きな収穫です。
 それまでは道具を買っても切れなくなればお払い箱だったものが、何度でも砥いで使えるようになりました。

 映画も大好きで、ずっと昔の小学校高学年か中学生の頃、アメリカの名優ゲーリー・クーパーが主演した西部劇「遠い太鼓」で、ゲーリー・クーパーがナイフで髭を剃っている場面がありました。
 なぜかこの場面がとても印象に残っていて「ナイフで髭を剃るなんてウソだろー」とずっと思っていたのですが、訓練校でノミやカンナの刃の砥ぎ方を教えてもらい、納得しました。
 自分で砥いだノミで髭が剃れるのです。カンナの刃で腕の産毛が剃れます。あの映画は正しかったのです。

 木工は単に作品を作ることだけが楽しみなのではなく、それ以上に楽しく達成感を得られるのが作品を作るための道具(治具といいます)作りです。
 訓練校で教官の元大工棟梁に何が難しいか尋ねたら、何とカンナ掛けでものこぎり引きでもなく、錐で垂直に穴をあけることだそうで、単純な作業ほど難しいとのことでした。
 例えば、角材を全ての面が直角に交わるように切ることは、素人にはまずできません。
 修行する時間も残されていないので、私の場合はのこぎりを使わずに自動ノコで、直角に、何本でも同じ長さに切れるように治具を工夫しています。
 お金を出せばよい道具はいくらでもありますが、こうした治具を手作りすることから始まる木工がとても楽しいです。

 桜のほかに檜、パイン、ケヤキなどを使って家具はほとんど手作りしています。
 現在は額づくりが多いです。45度×2で90度、それを4か所で合わせて360度を手作業で正確に切ることは結構難しく、その都度治具を工夫しながら挑戦しています。
 また、我家も築20年を過ぎ傷みが目立ってきましたので、そこは「家屋修繕課程」の修了生、畳替えと風呂を除きすべて自前です。 年金生活者、「入る」が限られているので「出る」を抑える生活防衛に努めています。