42期 徒然草 フール・ストレート
光ケーブル詐欺
                              
 今年(平成24年)の4月のある日曜日に、私はもう少しで振込み詐欺にひっかかるところでした。その日曜は、詐欺のために選ばれた日だったのでした。

 ひっかけの材料は、なんと光ケーブルでした。2人の若い男がチームを組んでNTT職員を装って電話してきたのでした。
 ご承知のように、パソコン(PC)のインターネット回線にはADSL(従来の電話線)と光ケーブルがあります。私は未だにADSL回線を使用しています。
 また多くの人が、一時期の頻繁でしつこい光ケーブル回線の売り込みに閉口された経験がおありかと思います。

 総務省の「光の道」構想をご存知ですか。
 この構想は、平成22年12月に基本方針が示されました。内容は「平成27年までに既存の電話回線を廃止して全世帯をブロードバンド網へ置換し、情報インフラの革新による経済的社会的な長期成長を図る。」というものです。
 ざっくりと言えば、情報通信は、光ケーブルを使用して大容量の内容を高速で行う社会を目指すという考えです。

 その光ケーブルの整備の現状ですが、国内の9割の世帯に光ケーブル等の大容量回線を接続できる状態にあるそうです。しかし実際の利用は約3割しかないようです。
 総務省内では遅々として進捗しない光ケーブルの普及に、もう無料で提供することもやむを得ない、という意見があることを伝えた新聞記事があったと記憶しております。
 光ケーブル会社は、無料提供では、光ケーブル整備費の回収が利用者の使用料だけに依存することになり、初期投資額の回収は悲観的年数となるから、現在も売り込み中です。


 最初は、詐欺の電話だとはまったく思いませんでした。
 NTT職員ですと最初に電話してきた男は、30歳代と思われる声で、業務に習熟した感じの落ち着きのあるしゃべり方でした。
 「NTTは光ケーブルを無料で各家庭に引くことになりました。希望されますなら、2・3日内に工事担当者からPC使用状況や日時についてご調整の電話をさせます。」という趣旨のことを言いました。
 私は、国もとうとう光ケーブルの無料敷設を決心したのかと思いました。また、こんなビッグニュースをなぜ聞き漏らしたのかな、新聞も見落としていたのかなと、ちょっとだけ妙に思いました。

 ものの10分ほどして電話が鳴りました。
 NTT職員だと言います。最初の男は2・3日したらと言っていたのに、随分と早いなと思いました。

 第2の男は、キンキラキンの甲高く上ずった声でした。どこか軽薄な感じのするしゃべり方で20歳前の少年ではないかと感じました。あとで思ったことですが、彼のしゃべりには業務上の接客対話を経験したことがない不自然さがありました。
 
 キンキラキン男は、それではお宅のPCについて教えて下さいと、機種名、購入年月日、使用ソフト名、プロバイダ名等常識的なことを質問しました。質問は多く無線LANの機種名、PCの電源コードの種類と名称、コンセントの穴の数とか、光ケーブル引込みとは関係の薄いことまで聞き始めました。

 この時点になれば、鈍感な私もこれはおかしいと思いました。私は「あんたの質問は、ケーブルの張り替えに関係ないことまで入っているね。」と言いました。彼は、相手は素人だとの思いが拠りどころらしく、「ご存知じゃないでしょうが、みんな聞かないと工事ができないのです。」と食い下がります。

 次に彼は、必要だからと銀行口座番号も尋ねました。私は、もういいよ。これで切るよと電話を切りました。
 彼は諦めずに再度電話をして来ました。本当に工事のために必要なのですと、残りの質問項目を聞こうと頑張ります。

 私は、彼に「僕が間抜けだったよ。光ケーブルの無料化は国家的な問題だから、NTTが連絡するとしても、まず社長クラスの名前がある文書で通知があるはずのことだよ。工事担当者がいきなりユーザーに連絡するのは不自然だよ。残念だったね。」と言いました。
 彼にはここら辺のことについて説明する知識はありませんでした。

 私はすぐ電話帳を持って来て、NTTお客様センターに電話をしました。光ケーブル無料化の真偽を確かめたいと思ったことと、場合によっては光ケーブル詐欺の事例を通報したいと思ったのでした。

 2つの意外性を味わいました。
 1つは失望でした。
 お客様センターは「本日は営業時間を終了しております。また改めてお電話下さい。」というアナウンス・マシンが回っているだけでした。
 社会的責任の大きい大企業に必ず通じる緊急連絡ルートが機能していないと思いました。通信回線は生きているが、肝心な人は出ないし、要件も録音しないので留守電より悪い。
 平日休日を問わず、当該企業等は部内の緊急連絡手段は確保しているのでしょうが、一般庶民の緊急事態に対応する態勢は、警察と消防を除き、土・日はお休み状態のようです。

 2つめは感心しました。
 詐欺グループは、このことまで研究していたのでした。大企業は週休2日制で、土・日は当該会社への電話もつながらないことを知っていたのです。自分たちのウソがばれにくい日を選んで仕掛けていたようです。
 あるいはNTTもこの程度の詐欺は日常茶飯事、各人で対応せよと傍観姿勢なのかも。