42期 徒然草 小柳 毫向
ひとり言
               
 帚木蓬生著「水神」を読んだ。

 久留米藩の江南原と呼ばれる地域の貧村の物語である。
 筑後川の豊かな水流に恵まれながら高台であるがゆえにその恩恵を受けることができず苦労する百姓の姿を見続けた五人の庄屋が百年・二百年後の子孫のため身代と命をかけて藩に嘆願し新たな水流を造る実話に基づく物語だ。
 当時の最下層の貧しい人々の崇高なる精神に感銘を受けた。

 戦前までは義務を強いる社会であり、義務を意識し果たす中で日本民族精神が培われてきたのかもしれない。
 戦後権利が認められ今や義務よりも権利が声だかに叫ばれる。
 義務は責任を意識するが権利は責任を意識せずむしろいろんなことを要求する。

 東電が値上げは権利であるとの発言やNHKが料金不払い者に対し裁判に訴える、これも権利意識だ。
 生活保護もその範疇に入る。

 今、社会保障と税の一体改革が検討されているが、保障は厚く負担は軽くでは社会保障という名の社会保護であり日本人の精神をスポイルする危険性がある。

 無理が通れば道理は引っ込む、権利が通れば義務は引っ込む、これが日本の現状だ。

 今こそ百年・二百年後の子孫のため国民として果たすべき義務を問い直さなければならないのではなかろうか。

 国を守ることも大事な義務と思うが。