42期 徒然草
 読書のすすめ(13) 小栁 毫向

 佐藤 優の本を読まれたことがありますか。

 外務省のラスプーチンと呼ばれ鈴木宗男と共に弾劾された男である。以前から佐藤が本を執筆しそれが結構売れていることは承知していたが、なんとなく胡散臭さを感じ読まずにいた。
 しかし先日ある方が佐藤の本を熟読しているという話を聞き読んでみる気になった。

 まず「国家の罠」(新潮文庫)、これは逮捕されるまでの経緯と逮捕された以降の獄中記からなる。
 逮捕されるまでの対ロシア外交の実態(秘を除く)特に鈴木と佐藤がどのように活動したかが詳しく語られ、その活動の中で外務省の局長や次官の決済を得てやったことが背任等の罪に問われた。
 局長や次官が罪に問われることなく佐藤が逮捕されることは常識では考えられない。

 それにしても外務省という役所は実に汚い役所であることが解る。
 外務大臣になった田中真紀子を切るため鈴木を利用し、田中を辞めさせたあと鈴木の外務省への影響力が大きくなることを危惧し、対ロ交渉にかかわる秘文書を共産党に匿名で送りつけ国会で追及させた。
 獄中記では佐藤と担当検事のやり取りが興味深い。
 要するにこれは国策捜査であり本丸の鈴木を有罪にするための捜査であり佐藤もそのための犠牲者にすぎないことも語られている。 読み物としても面白い。




 次に「世界史の極意」(NHK 出版新書)であるが、佐藤は同志社大学の神学科を卒業しクリスチャンであることから宗教に詳しい。また東大やモスクワ大学で教鞭を執ったこともありよく勉強している。

 歴史はドイツ語で「ゲシヒテ」と「ヒストリー」の概念があり後者は、年代順に出来事を客観的に記述する編年体のこと。対して前者は歴史上の出来事の連鎖には必ず意味があるというスタンスで記述がなされる。(本書84ページ)

 本書は「ゲシヒテ」の態度で中世以降のヨーロッパ、中東欧、ロシアに焦点を当ててその歴史を解説しており、最後の章ではキリスト教とイスラム教についても解説している。






 2冊とも結構質の高い本である。しかし佐藤に対する胡散臭さが払しょくされたわけではない。