42期 徒然草
読書のすすめ(5) 小 栁 毫 向
              
 今回は中村彰彦さんを紹介します。
 氏は歴史ものそれもあまり表舞台に出ていない人に焦点を当てた小説が多く、それだけに大変興味深いものがあります。

まずは「二つの山河」 本書は直木賞を受賞した作品。

 日英同盟時代ドイツと交戦状態になったイギリスの要請を受け、我が国はドイツの租借地の青島を攻撃、4,700人を超えるドイツ人を捕虜にしこれを全国12か所の収容所に収容、このうち徳島の板東の収容所長になった会津出身の松浦豊寿中佐の物語である。

 松浦中佐は武士道の精神をもって捕虜を遇しなおかつ大いなる自由を与えた。たとえば技術のあるものを地元の企業に就職させたり、収容所内に肉屋、パン屋、木工所などをやらせたり、また市民との交流も盛んにさせた。
 女性にドイツ料理、パン、クッキーの作り方を教えたり、子供にはサッカーを教えさせたりしている。
 ベートーベンの第九交響曲が我が国で初めて演奏されたのは捕虜によって編成された楽団によってでもある。

 後に捕虜を解かれ母国に帰る際松浦所長に感謝の辞を述べ、ドイツでは各地でバンドー会なるものが結成されたそうである。
 60ページ程の小品であるが感動を与えてくれる作品である。

 そのほか
「名君の碑」
二代将軍秀忠が側室に産ませた子,保科正之の生涯を描いた作品。
正之は名君であったと実感させてくれる。

「闘将伝」
桑名藩士であった立見尚文の物語。賊軍として戊申戦争を戦い抜き、その後西南戦争、日清・日露戦争にも参加、とくに日露戦争では弘前の8師団を率い黒溝台での奮戦ぶりは司馬遼太郎の「坂の上の雲」にも描かれている。

「海将伝」  
日露戦争の東郷連合艦隊の初代参謀長を務めた島村速雄の物語。旅順艦隊を撃破するまで参謀長を務めるが、それまでにわが軍も相当の損害を受け東郷の名を汚さないため自らその責を取った。土佐藩出身で元帥まで上り詰めた。


以上4点はいずれも文春文庫出版である。

 そのほかに「落花は枝に還らずとも」(中公文庫)「花ならば花咲かん」(PHP文芸文庫)等会津にかかわる本が多い。
 これらの本を通じ戊辰戦争の実態、孝明天皇が最も信頼していた松平容保、会津藩がなぜ賊軍になったのかあるいは戊辰戦争後会津藩士が受けた過酷な状況が理解できる。
 尚明治陸軍において会津出身者は少将までしか昇進できないという不文律があった中で初めて大将まで昇進した柴五郎の記録「ある明治人の記録」(中央公論新社)も古典として一読をお勧めしたい。