42期 徒然草
読書のすすめ(6) 小 栁 毫 向

 我々の年代になると親父は既に鬼籍に入っている人がほとんどであろう。私の親父は昭和48年58歳の若さで亡くなってしまった。既に親父より一回りも長生きしながらいまだに親父を超えるに至っていない。

 我々の親父は大正年間に生まれた人が多いのではと思うが、あの時代は日清・日露に勝って富国強兵の真っただ中、個人より国の施策が優先、国民の大半は貧乏であった。貧しい生活の中で多くの子を生し立派に育てた世代である。

 我々の親父とほぼ同じ世代の親父像を描いた本を紹介したい。

 一つは伊集院静の「お父やんとオジさん」上・下巻(講談社)もう一つは宮本輝の「流転の海」(新潮文庫)に始まる連作、現在まで7部が刊行され8部目がこれから雑誌に連載されるから読むには気の長い話になる。

 これらの本を読んで感じるのは、あの時代の人は偉かったなあとつくづく思う。

 偉いと思う点を3つ。

1、 自分の家族は無論のこと自分にかかわるすべての人に対し責任観をもっていた。

2、 任侠の心を持っていた、任侠とは困っている人に手を差し伸べること。

3、 どん底に落ちてもそれを糧としながら這い上がる強さがあった。


 あの頃の人は懐の深さというべきか奥行きの深さというべきかそういう深さを持っていたような気がする。これが私が親父を超えられない理由でもある。

 尚、伊集院氏は「受け月」(講談社)で直木賞を、宮本氏は「蛍川」で芥川賞を受賞し多くのいい本を書いておられる。