42期 徒然草 田中 征之
イギリス旅行の思い出(その1)
    
 ロンドン・オリンピックも終わり寂しくなりましたが、私にとってイギリスは特別の思いがあります。それは64歳にして始めて海外に出た先がイギリスだからです。

 英会話もロクに出来ず、一緒に旅行をする友達もいない私にとって、海外旅行は夢の夢、一生行くことはないと思っていました。
 ところが、有線放送の「ミステリチャンネル」で「シャーロック・ホームズの冒険」を見ている時に、「ポアロ・ホームズの旅」というツアーのコマーシャルが有りました。その瞬間、何故かこの機を逃したら一生海外に行けないという思いが湧き上がり、後先も考えず、すぐにFAXで予約しました。

 当時、一応会社に行っていたのですが、強引に7日の休みを取り、パスポートを取って、ツアー代金を払込み、4泊5日のイギリス旅行に行くことになりました。皆さんも初めての海外旅行は多少の緊張はあったと思いますが、私は当日の朝から緊張して、成田にも集合時間の1時間以上も前に着いて、集合場所に行きました。
 未だ誰も来ていないので、時間を潰すのに構内をウロウロ30分くらい前になって同じツアーらしき人が三々五々集まり始め、我々を
引率する添乗員も来たので、何故かこれで海外に行けるとホッとしました。

 搭乗手続きを終わってすぐに乗るのかと思ったら、「ツアーの説明と自己紹介」が用意された別室で有りました。
 ツアー参加者は36名、皆さんポアロ・ホームズのファンで、意外にも殆どが単身、友達、親子の女性、3組がご夫婦、男の一人旅は私だけでした。

 東京とロンドンの時差は8時間(遅れ)、飛行時間が12時間近く、11:40成田発の全日空機で一路ロンドンのヒースロー空港へ。
 機内の席は中央の真ん中、両隣は同じツアーの女性グループ、緊張していた為か、それから11時間余も話もせず、トイレも我慢して食事以外はひたすら眠りましたが、目が覚めると未だ2時間しか経っていず、その長いこと。
 ようやくあと15分でヒースロー空港に着くとの放送があった時にはホッとしました。

 少し気持ちの余裕が出来て、隣の女性に「ホントに長かったですね」と話しかけたのがきっかけで、両隣の人と堰を切ったように話が始まりました。
 ずっと一言も話さなかったのに不思議なことです。
 余計なことですが、旅で同席したときは、簡単な挨拶とか、会話をするのがベター、機内の席は選べるのならば通路側を選ぶ(トイレに行きやすい)のが楽と言うことが分かりました。
 
 ヒースロー空港には16時に着きましたが、時差を忘れていたため、なんで4時間で着くのと、どう考えても計算が合わない、これが時差ボケの原因かと思います。冷静に考えれば、東京の12時はロンドンの午前4時(8hの遅れ)。12時間かかっているので着くのは現地時間で16時ということになります。(本当に合っているのか自信なし)

 さてようやくヒースロー空港に着いて渡り廊下を歩いていると、向こうからターバンを巻いたインド人が何名か歩いて来ました。なんでこんなところにインド人がと思いましたが、英国はインドを植民地として長いあいだ経営していた事を思い出し納得。
 事実、英国にはインドの人も多く、その能力・信用度の高さから、ホテルのクローク、食堂のチーフを任されているのを見かけました。

 ここからは単身行動は迷子になる恐れがあるので、機内で隣だった女性グループの後について入国審査へ。
 イギリスの入国審査官は必ず入国の目的と泊まる所(ホテル名など)を聞くと聞いていたので、この2つだけ、聞かれても英語で答えられる様、旅行ハンドブックの簡単な文例集で覚えました。案の定、このとおり聞かれましたがなんとか無事。
 ここを通り「いよいよイギリスだ」と期待に胸が弾みました。

 これも余談ですが入国審査で泊まる所が無いと留め置かれる(通れない)そうです。これには色々な事情があるのでしょうが、マトモな人だけ入国させるということで必要なのでしょう。

 ヒースロー空港から宿泊先の「ヒルトンホテル」へはツアー専用の大型バスで移動、これは楽でした。それからのツアー移動は全てこのバスで、地元を知り尽くしたベテランの運転手さんと旅行社の添乗員2人、ロンドン在の日本人おばさんのガイド付きと至れり尽くせりのツアーでした。

 この小山さんと言うおばさんガイドは凄い、まさにプロフェショナル、多分、色々な旅行社とタイアップして日本からのツアーがあると、ツアーガイドとしての仕事を請け負うという方なのでしょうが「分からないこと、困ったことがあったら何でも相談して下さい」と言ってくれ、旅行社の添乗員2人より遥かに頼りがいが有りました。

 ホテルの一人部屋に旅装を解いて、さてどうしたものだろう、一緒に外出してくれる人もいないし、旅慣れた人は外食や買い物で出て、どうやら一人だけ取り残されたように思えました。
 しばらく躊躇した後に意を決してともかく外に出ました。

 これが人生で始めて異郷の地を一人歩きした第一歩でした。

 ホテルのあるケンジングトンは日本で言えば成城のような3階建ての高級マンションの立ち並ぶ静かな高級住宅街で、殆ど店屋もなく、あるのは街角に必ずあるパブが目立つ程度でした。









 実は外出の目的はこのパブでコクのある黒ビールを飲んで名物のフィッシュ&チップスを食べることだったのですが、一人でパブに入る勇気もなく、小さなコーヒー店でコーヒーを飲んだだけで、イギリス第1日は空きっ腹を抱えて侘しく終わりました。