42期 徒然草 田中 征之
イギリス旅行の思い出(その3)
    
 イギリス旅行2日目: アガサ・クリスティ生誕の地トーキー

 バスが進むにつれ、トーキーの町並みがいよいよ大きくなってきました。
 トーキーはロンドン西南約150km、海に面する美しい町で、アガサ・クリスティ生誕の地として知られています。又、どんよりとした曇りの日、雨の多いロンドンと違い、海岸線の広がる風光明媚な保養地とでもあります。
 あの紳士で少々お堅いイメージのイギリス人がこの地に来た途端、浮かれてはしゃぎ回ると言われます。事実、我々もトーキーの町並みを見ると眼前が明るくなったようで、観光に来ている人たちも浮き浮きしているように見えました。
 ガイドの小山さんの弁によれば、丁度日本の「熱海」のような所と言っていました。

 我々はパビリオン(観光展示館)前でバスを降りて中を見学、その後公園の入り口の付近にあるアガサ・クリスティの銅像をバックにそれぞれが記念撮影をしました。このツアーは個人情報の保護と言うことで、ツアー期間中、ついに団体写真は一枚も撮ることはありませんでした。

 アガサ・クリスティについて少し触れますと、アガサ女史は名探偵ポアロシリーズとミス・マーブルシリーズで、シャーロック・ホームズのコナンドイルとイギリスでも世界でも人気を二分する推理(探偵)作家で1890~1976 在。トーキーに中産階級の家に生まれ、読書好きな娘として育ち1914年に結婚し、幸せと思われた結婚も10年余で破局、その後再婚して漸く幸せを得ました。

 名探偵ポアロシリーズではオリエント急行殺人事件、ABC殺人事件など、ミス・マーブルシリーズでは牧師館殺人事件などです。
 シャーロック・ホームズのコナンドイルは1859~1930ですから30年の差があり、面白いのは登場する乗り物がシャーロック・ホームズでは馬車、名探偵ポアロでは馬車は出てこず、すべて自動車で19世紀から20世紀の文明の発達・移り変わりがよく分かります。
 




アガサ・クリスティはコナンドイルを意識していたようで、ポアロの相方はヘィスティング大尉(退役軍人)ホームズはワトソン博士、他の脇役も似たような2人で、ここにもそれが現れています。

 ホームズが現場に残された証拠から推理するのに比べ、ポアロは人間観察優れた脳細胞(自身は灰色の脳細胞と言っています)で人間模様のあやを解き解決します。又、ホームズは格好良く時には悪党相手に活劇を繰り広げるのに比べ、ポアロはベルギー人の小男で暴力は好まないという人物設定に成っているのも面白いところです。


 



さて、一連の見学を終わりバスはトーキー郊外のグランドホテルへ
 このホテルはイギリスの良き時代を思わせる立派なホテルで、内部は木造、恐らく築100年以上経っていると思われ、アガサ・クリスティも新婚の日に泊まったそうで、実際に宿泊した部屋もホテル側の好意で見せて貰いました。

 指定された部屋に旅装を解き、豪華なソファでくつろぐと、長旅の疲れでしばしうとうと、目が覚めると外は夕暮れになっていました。








 ああ、又晩飯の心配(このツアーは夕食は個人で外食)ホテルの食堂は高いだろうし、近くに食堂は無かったし、仕方ないトーキーの町まで出るかと下のロビーに行くと、飛行機で隣だったおばさん(失礼!未だ40代?)グループ3人がいて、これから町に買い出しに行くとの事。
 この方達は旅慣れていて、スーパーをちゃんと見つけていて、そこで安い食べ物を調達するのが秘訣と言っていました。

 一緒に連れて行ってくれることになり、海岸道を歩いてトーキーの市街へ。片道約1kmの距離も夕暮れの海岸と丘の上の町の灯りのコントラストが見事で、歩くのも苦になりませんでした。
 ともかく町のスーパーでサンドイッチと飲み物を買い、これで今晩は大丈夫、一安心と又、3人の後ろに付いて美しい町並みを歩いているとメキシコ料理店がありました。
 いつもは財布の紐の固い彼女たちもこのロマンチックなトーキーの夜景に誘われたのか、入ってみようかと言うことになりました。

 何たる偶然か、店内にはツアーの約半分の14,5名の人がいて楽しげに会食していました。
 添乗員の男性2人が連れてきたようで、我々も早速仲間に入れて貰いました。中に誕生日の人がいて、一気に盛り上がり、実に楽しい夜でした。
 この晩の事は夢ならもう一度と思える程で、今まで話したことも無く他人行儀だつたツアーの人たちとの垣根が一挙に無くなった気がしました。

 タクシーに分乗してホテルに帰り、その夜は満腹とアルコールの程よい酔いと楽しかったレストランでの偶然の出会いの思いに包まれて、幸せの内に眠りに着きました。