42期 徒然草
貴方の庭はどんな庭 田中 征之

 イギリスの推理小説作家として活躍したアガサ・クリスティーの短編に「貴方の庭はどんな庭」という話があります。富豪の叔母をあの世に送って遺書を書き換え、財産と美しい庭を手に入れますが、たまたまそれに使った牡蠣の殻を庭園の飾りに並べたのが運の尽きで名探偵ポアロの鋭い観察から犯行がばれるという話ですが、捕まる時にその犯人の女性は「私の庭よ 誰にも渡さない」と言いました。
 イギリス人は世界で一番ガーデニングが好き庭園・植物を愛していると言われます。これはいつごろから始まったのかはわかりませんが七つの海を制した大英帝国の頃には国策として世界の珍しい植物を収集したそうです。
 イギリスは放った収集家の中には当時外国人を入れない国だった中國雲南省やチベットに入り込み珍しいランの原種を持ち帰ったそうです。
 イギリス海軍の不名誉な事件として映画の題材としても多く取り上げられた「戦艦バウンティ号の叛乱」というのがありまして、本で読んだり、クラークゲーブルやマーロンブランドの主演した映画をご覧になった方も多いと思いますが、単に物語として興味深いのみならず歴史の真実として残っています。最後に流れ着いた島には今でも叛乱軍の末裔が住んでいるそうですから、歴史は面白いものです。この話の発端はイギリスが「パンの木」をタヒチから持ち帰り、食糧事情を良くしようと戦艦バウンティ号」をタヒチに派遣し、首尾よく数百本の「パンの木」の鉢を積み込んで帰路に着いたところまでは良かったのですがこの船(戦艦というのは名ばかりの船だったそうです)の艦長は非常に厳しい人で船に積み込んだ水は「パンの木」を無事にイギリスに持ち帰るためのものと言うことで船員には1日にコップ一杯の水しか与えず、違反した者は鞭打ちの刑を課しました。


 それまでにいろいろあったのでしょうが、ついに准士官と一部の水兵が反乱を起し艦長以下をボートに移して追放しました。ここからがすごいのはこの艦長は大海の中に放り出されたのに艱難辛苦、数年後にイギリスに戻り叛乱軍のバウンティ号追討の軍を出しました。この辺が大英帝国海軍のすごさと妙な感心をしています。



 前置きが長くなりましたが、私もいつの頃からか草木に興味を持つようになりました。
 といっても団地住まいで昔のように庭がある訳でもなく、切花より根のついているほうが長く楽しめるだろうと、花屋で目に付いた鉢を買って小さなテラスにおいていました。



やがて40鉢程になり、洗濯物を干すのにも足元が危ないほどになりましたがそのままにしておきました。ところが昨年の今頃、団地が築20年を超えたということで外装工事が始まりました。足場を組むのに邪魔になるのでテラスに置いているものを1ヶ月以内に片付けてくれという回覧が回り、さて弱ったことになりました。何しろ40鉢もあるのでゴミで捨てるのも大変だし、せっかく育てたのにもったいないと思い、目をつけたのが団地の中の小さな公園。ここには桜の木が植えられて大木となり、春には桜の並木を作って目を楽しませてくれていますが、いつの頃からか草花が好きな団地の奥さんが少しずつ花を植えて小さな花壇を作っていました。

 そこで目立たないように真夜中に数日かけて鉢の植え替えをしました。案外広いので、40鉢を植えてもさほど目立たないので一安心これでテラスの草花も捨てられずに安住の地を得ました。



その後、どこからも苦情が来ることもなく、管理者の公団もまあ草抜きをする手間も省け通る人も花を楽しむからかと黙認をしてくれています。
これが縁で今まで花壇を作っていた奥さんとも話をするようになり、仲間にして貰いました。
この人は福島の農家の出だそうで、流石に草木のことはよく知っていて、世話も上手で御蔭で春夏秋冬色々な花が咲くので、最近では道行く人が足を止める程になっています。


私は風呂の残り水をせっせと運んで水やりが役目になっています。男女の違いで女性はどちらかというと美しい花を育てることに興味があり、男性は「花より団子」で実のなる植木の方が興味があります。昨年は園芸店で買い求めたブルベリー4本、柿1本ミカン1本と、枇杷1本、その他も持ち寄ったみかんと橙の苗木が10本 
今年は同期ゴルフの時にもらった古代のえんどうがいっぱい実をつけて豆ご飯にして食べました。



 これだけ植えると小さな果樹園となっていずれは実をつけて楽しましてくれるでしょうが果たしてそれを目にすることができるだろうかと思います。この公園には毎日のように近くの幼稚園の園児が引率されてきますので、いつの日にか彼らがなった柿やミカン・枇杷を食べることができるのではと思います。後世に残せるのは精々そのくらいのものです。



残念なこともありました。昨年の夏に見事な花を咲かせた「月下美人」の鉢を3鉢も冬に屋内に入れるのを忘れたら、この冬の寒さと大雪で全部霜焼けになり死んでしまいました。3代にわたって生き延びたのに、誠に申し訳なく思いました。このことを初め貰った床屋さんで言ったら、もう管理できないからと多少傷ついた「月下美人」をくれました。
今度は大事に育てて、またあの見事な一夜の命の白い大輪を咲かせたいと思っています。

「貴方の庭はどんな庭」私の庭は団地の公園の片隅の小さな庭です。

寺澤君、永松君を始め多くの人が菜園を作り、私もおすそ分けを頂きましたが、今年の生育・収穫状況はいかがですか。また、家の庭いじりに精を出している方もおられると思いますので我が家の庭を紹介してください。