42期 徒然草
今年も咲いた月下美人 田中 征之

 一番ホットな月下美人の花の写真です。

 7月4日の夜7時頃からつぼみが開き始め、10時頃にはほぼ満開、今年1回目の見事な純白の大輪の花を咲かせてくれた。
 いつもは2時間位で花が萎んでしまうのだが、今年はかなり長い時間持ってくれている。
 花としては極めて短命なので、花の美しさもあり「美人薄命」という言葉がぴったりだ。



 この月下美人の花を見ると、これをくれた散髪屋のマスターを思いだす。
 20年ほど前に売れていたちょび髭を生やした演歌歌手そっくりでさぞかし玄人の女性にもてただろうと思ったが、本人も演歌と酒が大好き、店が終わると毎日のようにスナック通い、その不摂生がたたったのか、10年ほど前にガンで亡くなった。
 夫婦ともに北海道の羽幌出身で私の母方の親戚が羽幌なので話が弾んだことを覚えている。

 その時貰った月下美人は翌年から花を咲かせてくれたが、冬に寒さにやられて枯れてしまった。
 これでマスターとの思い出も途切れてしまったと残念に思ったが、たまたま奥さんにその話をしたら、葉が元気がなく花も咲かなくなったのがあるから良かったら持って行って、とくれたのが今の月下美人。

 多少日の当たる場所がお気に召したのか、新しい茎がにょきにょきと出てきて沢山の葉をつけ、今では巨大に育ち小さな森のような様相を呈している。
 月下美人はサボテン科の植物なので、寒さには弱い。前回の失敗に懲りて、今は毎年冬になると、巨大になりすぎた植物を家の中に入れて春になるのを待つている。

 ただでさえ荷物が多く、狭い居間の唯一日の当たる場所を占領されているが、思い出に繋がる月下美人は私にとっては特別な思い入れがあるのかも知れない。
 そのお礼に毎年美しい純白の大輪を見せてくれる。
 この植物は寒ささえ気をつければ、時々水と少しの肥料を与えるだけで、ほっておいても育つので、殆ど手がかからない。
 多くなりすぎた葉は切って土に差し、水を適当に与えてやれば、1ケ月も経てばもう根ずいている。


 植木鉢で育てて、高校の催しでOBの園芸部が展示販売しているコーナーの隅に紹介文と共に買い物ビニール袋に入れた5鉢ほどの月下美人を置いておいたら、すべて持ち帰ってくれた。
 分身はそれぞれの家庭で大事に育てられ、大輪の花を咲かしてくれているだろう。

 ホームページを見ると育て方や咲いた花の紹介など数多くあり、バラの様に目立たないが、ファンも多いようだ。

 たった一夜に誰に見せるでもなくひっそりと純白の大輪を咲かせ、ひっそりと花を閉じる切なさに愛おしさを感じ、開花を楽しみにしている人が多いのだろう。


   「たがために命を燃やす純白の花」