42期 徒然草 | |||||||||||
ポリープがありますね・・・ | 谷口 日出男 | ||||||||||
なんか腹具合がイマイチ、シャキッとしないなぁ、どこといって痛みはないんだけど腹がいつも腫ってガスが溜まってる感じがする。 例えるなら「苦しいのは花嫁のHe、五臓六腑を駆け巡る」っていう感じか・・・ 春四月、東京での総会で逢った朋の言葉が甦る。 "谷口!そりゃー絶対受けといた方がいいぞ、いやっ、お前も年寄りの冷や水でまだ走り回ってるようだけど、もう歳なんだからどっかにガタが来てるぞ、受けろよ! 俺もまさか自分がと思って十年近くもなんにも受けてなかったんもんなぁ、たまたま受けた検査で判ったんだ" それこそ富士学校AOC以来の再会である朋から、お互いの健康問題を話している時に強く念を押された。 相変わらずの生気溢れる話しぶりである。 こんな元気な彼が今は何とかガンのステージⅣと診断され、余命2,3年と宣告されたそうだ。尤も彼が言うにはその余命年数も過ぎてまだこうして生きているんだという。 えっ!ホントそうなの?と聞き直すもそうだという。嘘じゃなさそうだ。
そういや胃カメラを飲んだのは、それこそ20年近くも前の自衛隊定年時の健康診断の時だったか。そん時は、あの頃の黒いぶっといチューブが呑み込めなくて今でもその苦しみがトラウマで残っている。 リタイア後も医療関係の会社そして病院務めとなったがあの便秘になる白いバリューム液を飲んで大型バスの移動検診車で遊動円盤みたいなものにしがみつき、グルグル回されながらの胃透視の検査を受けたことがあるだけで胃カメラを飲んだり、菊門の方からの検査は受けてたはいなかった。 そんな検査をなんとなく避けていたのも事実だった。 前立腺ガンの検査で下半身露出検査に辟易していたのもあるか。 そして仕事を辞めたいま毎年市役所から送られてくる特定検診の案内も中身も見ずに放っていた。 しかしなんとなく不安感に襲われるこの頃の腹具合、やっぱりここいらで一回は検査を受けとった方が良いだろうとこの年になってやっと決心する。 受診先は、近くの久留米大学医療センターである。10時半に到着。待合室はもうびっしり、大半が老人なり。 あれこれ検査を受けたい旨を受付に言ったら消化器科に廻された。そこもいっぱいの人である。席を見つけて座る。 周りを見るけど誰も見知った顔は見当たらず。同じ久留米でしかも隣の校区なのに世の中、これだけ知らない人が多いのか・・・。 長かった。途中、本を取りに車に戻るも集中しては読めず。 やっと呼ばれた。時計は、もう13時半なり。俺が今日の診察の最後なんだろう。回りに居たあれだけの人がもう殆んど居ない。優しそうな四十過ぎの医者である。 あれこれ聞かれて検査日の調整に入り、早速その医者が診れる明日に胃カメラ、来週に大腸ファイバーとなった。話は10分で終わる。3時間も待って10分じゃと思うが自分の遅くの受け付けと医者もその間、飯も食わずに頑張っていることを思えば腹も立たず。 今は、胃カメラの方は上部消化管内視鏡検査、大腸フイーバーの方は下部消化管内視鏡検査というそうだ。 明けて次の日、勿論朝飯抜きである。血液検査に腹部エコー検査とあり最後に胃カメラとなった。 あの初めて胃カメラを飲んだ時の恐怖?が甦ってくる。 定年時の健康診断で自衛隊の福岡地区病院で初めてその検査を受けた。防衛医大出身みたいな?若い医者が下手だったのか俺が我慢できなかったのか何度が挿入が試みられた。 医者が"ハイッ!力を抜いて"と言われても自分の意志とは関係なしに喉がヒクッーと閉じてしまう。涙流してやっと入った。はいってからもあのオエッーという嘔吐感が押し寄せまた涙。 あ~ぁ、苦しかったなぁ・・・そのトラウマが押し寄せてきた。 若い看護婦さんが優しく微笑みかけてくれる。担当の医師も心配することもないですよ、簡単に入りますよと言ってくれる。検査室に入る前に喉の痺れ薬を飲まされた。 その時、隣りに車椅子でおばあちゃんが入ってきた。もう、十分に枯れた80半ば過ぎである。車椅子から落ちかかっている。看護婦のやりとりからこのおばあちゃんも胃カメラを飲むみたいだ。こんなお年のおばあちゃんが飲むくらいだから日本男児の俺がと心にハッパを掛ける。 "ハイッ!口で息を吸って"と医者に言われる。なんと今は口からじゃなくて鼻から入れるんだ。難なくはいった。なんだ、なんともないじゃないか・・・しかしそれも次のオエッーと吐きたい気持ちに駆られまた苦闘が始まる。
それから五日後、今度は大腸内視鏡検査なり。同じく朝飯抜き。前の晩、下剤を飲みややお尻が弛んでからの受診なり。 今日も患者が一杯。その中で一人町内会でお世話になる人に出会った。聞けばその人も前に胃カメラ飲んだとか・・・。世の中、こんな検査で受診する人も多いんだ。 前回と同じ部屋で9時半からまた下剤飲み。大きなシビンみたいなボトルに液が一杯入っている。二時間かけて飲んでくださいと言われる。 前の胃カメラの時、この下剤を飲んでた人を見ていたので様子はわかっていた。本を読みながらそのボトルを空ける。 その検査待機室、本日4人の大腸検査受診者なり。70過ぎのガッシリした男、俺の隣には同じく70過ぎた婦人、前には四十過ぎの坊主頭の男。そして俺の4人がそれぞれ目の前のボトルと黙ってにらめっこしている。 テレビは、相変わらずの何とか学園のワイドショーをやっている。 婦人が語りかけてきた。"私は、毎年この胃カメラと大腸検査をやってますの、どこも異常はないんですけど検査をして貰うと安心できますわ、いえっ、検査は全然苦しくはないですわ" 凄いオバハンも居るもんだ。 しかしオバハンみたいな人がいるから国民医療費がかさむんですよとは言わなかった。 9時半に飲み始め、4回トイレに行き2時間後には飲み終えるもまだ腸が検査を受けるまでにきれいになっていないとお茶を飲まされる。今日はこの4人の検査をするので前の人が終わらんと自分の番が廻ってこない。医者も激務である。やっと呼ばれた最初は、その40過ぎの坊主頭の人。 そして約20分後、その人が終わり、"ハイッ!谷口さんどうぞ!"と呼ばれる。お尻の方が穴の空いたパンツに上着は患者衣なり。こっちはそう恐怖感もないのでカメラはスンナリはいってくれる。 俺も画面を見ながらの診察なり。まるで映画並みだ。かって見た映画の「ミクロの決死圏」を思わせる。
それとも、"じつは、・・・・"てなことがあるかな? 支払を済ませる。今までの合計金額¥20,800円なり。このお金で健康が買えたと思えば安いもんか・・・。昼は、検査で病んだお腹の回復のためにとオジヤにしてくれた。オヤジ、あんがと!と妻に礼を言う。 そして月が変り連休明けの9日、検査結果を聞く。
毎年はと言わずに2年に1回は定期的に受けた方がいいでしょう。 日本人に最近この種の大腸がんが増えたのは食生活における欧米型でしょう。そうですね、おっしゃるように肉主体の食事が原因でしょう。通じの良いものを食べ大腸に負担を掛けないようにするのが一番でしょう。 また通じは毎日規則正しく行くよう努めたほうが良いでしょう。運動もいいですね、ハハァー、やりすぎるほどやることは要りませんが便通がよくなるには運動は効果的ですよ。 最初の診断の時にお腹が張るような感じと言われてましたがこれは大腸のせんどう(蠢動?)力が落ちて働きが弱まっているのかも知れませんね。年相応の現象ですか。 まあ、今のところ別に異常は認められませんがこれからも定期的に健康診断を受けられることをおすすめします。えぇー、ここでも今回の様に受けることも出来ます。2年後ですか?私はもうここにはいないかも知れません。大丈夫ですよ、他のお医者さんだって良く見てくれますから・・・ どうもお疲れ様でした!" 今日の支払は210円ポッキリなり。 かくして念願だった上部・下部消化器検査は終わった。あの前立腺がんの疑いで生体検査を受けたのに比べればさほどきついものではなかった。
何はともあれ今のところ異常なしの診断結果に感謝しなければならない。 しかし、この歳になると身体のあちこちが軋んできた。そうだよな、とっくにオヤジの享年は超えてるし、寄る年波で身体のどこそこが大丈夫かと問われてみたら、どこもかしこもなんとなくおかしく感じる。 帰りは、久し振りのシットリとした雨になった。ワイパーが縫う合間に、彼の顔が浮かんできた。 "俺、検査受けたよ!どうもありがとう!W君!" |