42期 徒然草
四万十川を歩く(後篇) 山田 和夫

(1)第4日(7月30日 火曜日)
 キャンプ場では暗くなれば寝てしまうので、夜中の1時か2時には目が覚める。ところが今朝は3時過ぎまでぐっすり眠れた。珍しく空腹感を感じたので早速昨晩の寿司弁を食べてみた。とても美味しくて完食した。体調も悪くはないので、とりあえず歩き旅を続けることにする。しかし、無理をしないように今日の目標を約20キロ先のふるさと交流センターとした。

 歩き出してみると、足も体も全く問題ない。順調に歩いて昼過ぎにはふるさと交流センターに到着したが、キャンプするには早すぎるので先に進むことにした。13時半には道の駅四万十大正に到着、冷やしうどんを食べる。結局今日は約37キロ歩いた。ほぼ体調は回復したと感じた。まだ早いがキャンプを張ることにする。
 
 リバーパーク轟は、利用料500円で日中は管理人が居る。管理棟が山の上部にあって、そこを頂点に扇のように河辺までキャンプ場が広がっている。今日も一人で広いキャンプ場を独占だ。時間はたっぷりある。3度水浴びして体を十分に冷やす。

 夜、横になってテントの外を見ると、小さな虫がかすかな明かりを引きながら飛び交っている。四万十川流域はホタルの名所が多いが最盛期は5月から6月初旬だからもうホタルの季節は終わっている。動きは緩慢だが小さな光がいくつも飛び交う様子はとても幻想的だった。
歩いた距離:37キロ

(2)第5日(7月31日 水曜日)

6時、キャンプ場を出発、相変わらず晴天で風もない。舗装道路の照り返しがあまりに暑いので、昼ごろ水浴びして体を冷やそうと崖を降りて河原に出る。漸くたどり着いた河原でしばし水浴びしてまた元の道に戻ろうとしたが、崖で道を間違え畑に出てしまった。畑や田圃などは野生動物の被害を避けるため鉄製のフェンスで囲まれている。急な崖をフェンス沿いに大きく迂回して漸く隙間から通りに抜けることができた。折角の涼がすっ飛んでしまった。

 体調が回復したとはいえ、相変わらず大好きなパンが喉を通らない。そこで寄り道して3年前のお遍路で野宿したことのある道の駅「あぐり窪川」に行くことにした。ところがあぐり窪川は以前に比べれば休憩所がつぶされてずいぶん狭くなっている。駐車場もギンギンに焼けてテントを張ったとしても暑くて寝ることもできないだろう。やむを得ず宿をとることにした。
 道の駅にあるパンフは高級ホテルばかり。適当な宿の情報がなくて困っていると前をお遍路さんが通る。お遍路さんは何日も宿に泊まるので格安の民宿を知っている。尋ねるとご本人はうなぎ屋さんが経営する民宿に泊まるという。窪川市内なので3キロ戻ることになるが、早速連絡を取って宿を確保した。おかげで夕食に四万十の天然うなぎ(真偽は?)を腹いっぱい食べた。
 歩いた距離:36キロ

(3)第6日(8月1日 木曜日)
 昨晩のうな重と風呂のおかげで元気大いに回復。しかも、朝ご飯を腹いっぱい食べ、2食分のおにぎりも作ってもらった。
 
 今日の目標は、キャンプ場としては地図で確認した中では最も上流にある天満宮前キャンプ場とした。相変わらずの暑さではあるが、少し風があり、体調も問題ない。川沿いの景色を楽しみながら順調に歩いて15時半にキャンプ場に到着した。公営のキャンプ場で、利用料300円。日中は管理人がいる。とても立派な施設で、真新しい水洗トイレ、シャワー室、障害者兼乳児用の大きな設備も備わっている。
 この付近になると川幅も随分狭くなっている。何組かの家族連れに混じって早速水浴びをする。その後、キャンプ場備えの自転車を借りて近くの大野見の町へ買い物に出かける。管理人が帰った後は一人で大きなキャンプ場を占領した。
歩いた距離:28キロ



(4)第7日(8月2日 金曜日)
 6時にキャンプ場を発って30分ほど歩くと道路脇に沢水が流れ、「久万秋の湧水」の標識とひしゃくが置いてある。四万十川では初めての飲める沢水だ。ほのかに甘みがあってまろやかな味がしてとても美味しい。たっぷり飲んだ。順調に歩き、昼ごろを予定した船戸に10時半に着いた。1日遅れだった行程もほぼ最初の計画に戻った。船戸には経路上では初めてのコンビニがあった。スイカやアイスでのどを潤して、荷物を置かせてもらい、2時ごろには戻るつもりですぐに登りにかかった。


源流点は、車で登れる最終点からさらに30分ほど急な岩場を登って、12時半に到着した。遂に歩き切った。予想以上の暑さに苦労し途中で中止しようかとも考えた歩き旅であったが、不入山の鬱蒼とした森の冷気に浸りながら、達成感を味わった。
 
 コンビニに戻って昼食を摂りほっとしていると、このまま須崎経由で高知に戻ってしまうのが勿体なく感じた。折角の四万十の大自然、もう少しその雰囲気を味わいたいので、再び昨日の天満宮前キャンプ場に戻って、明日久礼経由で高知に出ることにした。大野見行きのバス待ちの間に、コンビニの脇の川幅3メートルほどしかない四万十川で近所の子供と一緒に水浴びをして時間を過ごした。
 
広い天満宮前キャンプ場を一人で占領して、最後の四万十の夜を堪能した。
   歩いた距離:38キロ

(5)第8日(8月3日 土曜日)
 7時半キャンプ場を発って大野見のバス停に行く。大野見からは狭い山道を土佐久礼駅に向かい、11時ごろには高知に着いた。まず、駅前の郵便局でキャンプ用具など重い荷物を全部自宅に送り返して身軽になった。しかし、暑い中観光見物する気がしないので、「よさこい祭り」の準備の様子を何となく見て時間を過ごしただけで、明日のフェリーに乗るため高速バスで徳島に向かった。
 その徳島では、宿を探したが今日は週末の土曜日、どこも満員で空き部屋が見つからない。そこで方法は2つ
 ① 明日のフェリーを止めて、高速夜行バスで今夜中に発つ。
 ② サウナか公園で一晩過ごし予定どおり明日のフェリーに乗る。
夜行バスの切符売り場に行くと時間外で閉まっており、切符が手に入らない。行く宛もないので発着所の涼しい待合室で時間をつぶしていると職員が、最終便に空席があれば運転手と交渉して乗せてもらえることがあると教えてくれた。幸い22時の最終便は乗客が多くて臨時に3台運行することになったため、最終便の空席を確保できた。

6 歩き終えて
(1) 都会の便利さが前提だった?
 四万十市では、8月12日には国内観測史上最高の41度を記録した。四国の夏が暑いことは3年前のお遍路で体験済みで、それなりに準備をしたが今年の四万十は予想以上の暑さだった。まだ体が暑さに慣れていない初日に、河口に到着するまでに脱水症状→熱中症に陥ってしまった。
 四万十川沿いに歩き始めてから30分ごとにタオルを絞るほど大汗をかいたにもかかわらず自販機が少なく水が手に入らない。経路沿いにはお店がないし、店があっても品ぞろえが限られている。車なら問題はないが歩きでは行動範囲が限られる。都会生活に慣れきってスーパーやコンビニ、自販機がどこにでもあるとの先入観が災いした。(というよりも、今時四万十川を歩く者なんていないということだろう。)

(2)歩く楽しさ
 歩くことは車に比べれば遅々としているが、しかし確実に前に進んでいく。目標はかすんで見える峰のずっと先だ。果たして昼までに超えられるのかと思うほどの遠さだが、でもゆっくりと景色が動いて、目で楽しんでいるうちにいつの間にか過ぎている。景色が、人が住んでいる家並みがあっという間に過ぎ去らないことが、歩くことの楽しさだ。四万十の自然には随分と癒された。
 計画を立てていろいろ準備することも楽しいが、現場で不都合が生じれば気軽にどんどん修正して思いどおり歩く。これが一人で歩く最大のメリットだ。
 逆に、体調不良の時家族は帰宅するよう勧めたが、3日間も引っぱって歩き続けたことも一人で決める気安さと言える。それだけに慢心・自信過剰に陥る危険もあるので、十分に自重しなければならない。
 「アンチエイジング」、まだまだ老いていないことを実感したくてやっている歩き旅、実は、それを意識すればするほど「老い」の脅迫感を感じているのかもしれない。