42期 徒然草
運転免許証を返納して 吉田 道也

 私が自動車運転免許を取得したのは、二人目の子供が生まれ日々の買い物にも苦労するようになったときであった。
 しかし陸幕勤務になり、都内の官舎に住むようになってからは、車で出かける余裕もなく、駐車場の制約もあった事から、車を手放す事にした。

 それ以来地方勤務の時は中古車を購入して乗り回し、首都圏勤務になった時には車を捨てるという生活を繰り返してきた。
 そして最後の勤務が都内であったため、車を持たないで定年を迎える事になった。
 退職金で車を購入する事も考えたが、年金生活では維持費の負担も馬鹿にならず、交通の便もそんなに悪くないところに居を構えた事から、車無しの生活を送ってきた。

 近年、脚が悪くなって外に出る時には車椅子が必要になった義母の病院通いに『車があればいいのに』という家内の愚痴を聞かされながらも、『20年近く運転していないのに今更』と言っているうちに、運転免許証の更新時期が近づき高齢者講習の案内状が舞い込んできた。

 近年高速道路を逆走したり、ブレーキとアクセルを踏み間違えて駐車場から転落したりという高齢者の事故が相次いでいるニュースを耳にしている中、今後運転するかどうかもわからないのに高額の講習料を払ってまで免許証を持っている必要があるのかと悩み、また免許証を返納してしまえば2度と手にする事は出来ないだろうし、自分の能力を一つなくしてしまうような気にもなり、なかなか決心はつかなかった。
 そのうち講習の申込期限が迫ってきてついに警察署に出かけて返納の手続きをする事にした。手続きはきわめて簡単で、数日後には身分証明書として使える『運転経歴証明書』という免許証と同じようなものをもらい、手続きは終了した。


 もうこれで車の運転が出来ないという一抹の寂しさはあるが、免許証を墓の中まで持って行っても仕方がないし、何より車の運転をして事故を起こすリスクがなくなった事でさばさばした気分である。

 現在車を運転している方に免許証を返納しろとは言わないが、皆さんもそろそろ車を運転するリスクを考えてもよい年になっているのではないでしょうか。